vol.12 2日前が、《私》の後ろに?ペトリシェヴァ・ニーナ

ロシア人と日本人で異なる時間の捉え方。

ペトリシェヴァ・ニーナ 写真01

 日本語では「家のに自転車がある」とは言いますが、「自転車のに家がある」とは言いません。空間を捉えるのに大きく動かないものを基準としているためで、これは英語もロシア語も同じ。人類共通です。では、時間はどうでしょうか?
 日本人にとって「火曜日の2日は日曜日」ですが、ロシア人は「火曜日の2日 は日曜日」と言います。ロシア語を母語とする人にとって《私》は未来に向かっているのであって、未来は私の前方に、過去は私の後方にあると捉えているためです。日本人にとっての時間は、《私》に関係なく流れており、日本語は過去のことはもう知っているから、“目の前にある”感じで順番をつけ、その日が前か後ろかを問題にしています。
 日本語はよく「主語が無い」と言われます。また、“する言語”でなく、“なる言語”であるとも言われます。“する言語”であるロシア語で育った私は来日当初、知人から笑顔で「結婚することになりました」と言われ、「いったいなぜ本人と関係ないように表現しているのだろう」と、戸惑ったことがあります。

言葉だけでは本当の気持ちは伝わらない。

 このように、言語には人類共通の部分がある一方で、それぞれの文化を背景とした認知の違いが異なる表現を生んでいます。私の専門である「認知言語学」では、さまざまな言語の共通性を探るだけでなく、こうした文化的な相違点を研究しています。
 そんな研究対象の一つに「相槌」があります。日本人は、人の話を聞いている間に、「はい」「うん」「ええ」「へー」…などと頻繁に相槌をうちます。その意図を探ると、「理解した」「了解した」こと以外に、全体の30%〜40%くらいは単に「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」という傾聴の証でした。しかし、こうした習慣は、ロシア語を話す人には通用しません。ロシア人にとっての傾聴の証は、何も言わずじっと相手の目を見ること。頷くことさえせず、相手の話を聞き終えてからやっと話の内容に賛成しているのであれば「ダー(Да)」と頷きます。それが、きちんと相手の話を聞くマナーなのです。ただ、日本人はそういう風にされると自分の話に怒っているのかと緊張してしまうでしょう。逆に、ロシア人が話している時に日本人が、「うん、うん、えぇ、えぇ」と頻繁に相槌をうつと、ロシア人は苛々しはじめます。ロシア語での相槌「ヌ(Hy)」は「それで?」「だから何?」という意味でも使われるため、自分の話がつまらなく、急かされているように感じてしまうのです。

言語の学びが新しいあなたをつくる。

ペトリシェヴァ・ニーナ 写真02

 言語は、互いの意志を通じ合わせるためにあります。しかし、言葉を連ねるだけでは、十分に気持ちを伝えあうことはできません。相槌のうち方のように、その言葉を育んできた人々の習慣や文化を理解した上で使わなければ、完全とは言えません。
 逆に言えば、外国語を学ぶことによって、その言葉に付帯するさまざまな習慣や慣習、文化を学びとることができます。さらに、それまでの自分とは異なる物事の見方や捉え方を身につけることができる。日本人としての見方だけでなく、別の角度、異なる視点から物事を見られるようになることは将来、大きな武器になるはずです。何よりも、その体験は楽しく、あなたの視野を広げてくれるでしょう。
 国際教養学部では、あなたの母語である日本語と国際共通語である英語のほかに、あなた自身でもう一つの言語を選んで学びます。あらゆる人が共通してもつべき知性に、あなたらしさを際立たせる、もう一つの知性を加えることで、教養はより深く豊かなものになるのではないでしょうか。

ペトリシェヴァ・ニーナ プロフィール写真

Profile 中京大学国際教養学部 准教授 ペトリシェヴァ・ニーナ
ウクライナ、ハリコフ市出身。1996年ハリコフ国立大学外国語学院卒業後、留学のために来日。2007年北海道大学大学院言語文学研究科博士課程修了(言語文学博士)。2008年より中京大学講師。2012年に国際教養学部准教授に就任し、現在に至る。専門は認知言語学、語用論、機能言語学など。言語構造よりも言葉の使い方に興味をもち、言葉と文化、言葉と人間認識の相互の影響を研究。日本認知言語学学会、日本ロシア文学会会員。

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