中京大学 教養講座

バカにできない、『イワンのばか』

岩波少年文庫
「イワンのばか」

 せっかく手にした富も力も平気で他人に与えてしまい、周りの者たちからバカだバカだといわれるイワン。ひょんなことから王となったイワンの国のきまりは一つ、「手にマメのある者だけが食卓につける」というものでした。しかし、この妙なきまりのもと国民は幸福に暮らしました。イワンは働くことの価値と、満ち足りることを知る者だけが、幸福を味わえることを知っていたのです。
 この物語の作者はロシアの文豪トルストイです。彼は、50歳になる頃新たな境地に達し、第二の人生を歩み始めました。文学活動においては、それまでの『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』といった長大なものではなく、誰にでも分かる一連の民話風の物語を書き始めます。その一つが『イワンのばか』でした。トルストイは、主人公イワンの生き方を通して私たちに問いかけています。「ほんとうの豊かさとは?」「ほんとうの知恵とは?」について。

ほんとうの豊かさ、ほんとうの賢さ

 トルストイは「人生にはただ一つ疑うことのできない幸せがある―他の人のために生きることである」と述べているように、小さき者、貧しき者のために生きようと努めました。19世紀末のロシア飢饉では救済運動を展開しました。当時のロシア正教会の教えに異議を唱えたことで教会から破門されたり、絶対平和主義のゆえに反発を受けたりもしましたが、国内外に共鳴する人たちもいました。「いかに生きるか」にとどまることなく、「いかに生きているか」を大事にし、最後まで自身の信念に基づいて生きようとしました。
 私の研究領域は、こうしたトルストイやドストエフスキーを生み出す土壌となった「ロシアの文化」であり、特にそれを形成するうえで大きな影響を与えていたロシア正教です。ロシアの教会の屋根がタマネギ型をしていることから、「私の専門はタマネギです」などと言ってけむに巻いています。
 副学長だった時もロシア文化や近代日本文学との比でのロシア文学の授業などを受け持っていましたが、学長になってからも、学生との時間を持ちたいと、国際教養学部でロシア語を専攻する学生のゼミを担当しています。なぜロシアなのか―明治以降意外にも日本との関わりが深く、近代化への向かい方でも共通点をもっていること、ロシア文学が近代日本文学の形成に一定の影響を与えたことなど、理由はいろいろです。しかし、それらは後から気づいたことで、私が研究を始めたのは、あまり人がやらないことを勉強してみたいということでした。その分、研究書が少ないということで苦労しましたが、興味を持って探していると、図書館や本屋さんなどでも、本の方から「私を見つけて!」と訴えているのに気づき、見つかっていくものです。手にして、読み始めるや、未知の世界がパーッと拡がっていくのでした。
 学生たちにも是非こうした醍醐味を味わってもらいたいと思います。自分にしかない何かを見出し、それに取り組むことは楽しいものです。4年間の大学生活を通して、学生たちには「自分らしさ」を見出してもらいたいとも思っています。

大学では学生が主人公

 大学では学生が主人公です。大学スタッフは、学生が存分に学び、社会に出る力を備えていけるよう、指導していきます。中京大学の教育の基本方針は「自ら考え、行動する、しなやかな知識人を育てる」です。ここには、いま盛んに言われる《自主性》《自立性》を培う基礎があります。また、時代に流されない強さ、相手を思いやる優しさ、変化に対応するしなやかさを身につけることが求められています。
 11学部18学科を擁する中京大学には、人文・社会・自然科学の幅広い領域に学ぶ多彩な人間が集まっています。総合大学の利点を生かし、学生同士、教職員との出会いを通して成長して欲しいと思います。
 中京大学では入学時の初年次教育に力を入れると共に、昨年度から、卒業を前にする4年次の最終学期に大学での学びを締めくくり、社会に出る備えをする学部を超えた「教養探究ゼミ」を開講し、入学から卒業までを貫く教育体制をとっています。それぞれの学部ゼミで専門の学びを集大成すると共に、総合大学のメリットを生かし、他学部の学生と共通テーマについて意見を交わし、学びをまとめ、社会に出る備えをしていくものです。

Profile

中京大学 学長(国際教養学部教授) 安村 仁志

2015年4月から中京大学学長に就任。国際教養学部教授。専攻分野はロシア正教史、東方正教会神学。著書には『ロシア世界』(共著、世界思想社)、『ヨーロッパ・キリスト教美術案内』(共著、日本基督教団出版局)等があり、『宣教師ニコライの全日記』(共訳、教文館)は2007年度日本翻訳出版文化賞を受賞している。私大連教育研究委員会委員等の公職を歴任する一方、日本トルストイ協会(副会長)、日本ロシア文学会(元理事・中部支部長)等の学会活動にも積極的に取り組んでいる。

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