2024.04.15 学部
小島康生教授(心理学部)
こども環境学会で2023 年度(第 19 回)「論文・著作奨励賞」を受賞
心理学部の小島康生教授は3月31日、こども環境学会の「こども環境学研究」Vol. 19, No. 2に掲載された研究論文「迷子の発生にみる親子関係の発達」が、2023年度「論文・著作奨励賞」に選出されました。こども環境学会は、学問領域を超えて研究者や実践者が集い、こどもを取り巻く環境=こども環境について共に研究し、提言し、実践していくなかで、学術的な総合科学『こども環境学』を確立し、よりよい成育環境を実現していくことを目的としています。今回、小島教授が受賞した研究は『迷子の発生にみる親子関係の発達』です。
概要
子どもの迷子とは
子どもの迷子は、親子双方の互いの行動への信頼や思い込み(例えば、親は「子どもが勝手に遠くへ離れていくことはないだろう」という信念を持ついっぽう、子どもは「親はいつも自分のそばにいてくれるだろう」という信念を持っているなど)と、周囲の環境(見通しが悪い、人ごみであるなど)が交差する中で起こる、心理学的にみても大変興味深い現象です。しかし、この「迷子」についての実証的な研究はこれまでほとんどありませんでした。海外の多くの国では、親が子どもから目を放すこと自体が禁じられていることも多く、治安の良いわが国ならではの特有の現象とも考えられ、迷子は、本邦における親子関係と環境の相互作用、及びその発達的変化を解明するための格好のテーマといえます。
調査手法
オンラインによる調査を実施しました。1歳0ヵ月から10歳11ヵ月までの範囲の子どもを持つ母親に回答を依頼し、直近で経験した子どもの迷子について、迷子が発生した場所、人ごみ、再会までの時間、前後の状況(どういう経緯で迷子になったか、そばに誰がいたか、再会はどのようになされたか、再会したとき子どもはどのような様子だったか)などについて、記述してもらいました。
主な結果
迷子は、2~5歳にかけてがピークで(10%前後)、6歳以降は1%程度で出現することがわかりました。また、分析の結果、大きく3つの段階(1-2歳、3-5歳、6歳以上)に分けられ、(1)親が目を離したすきに子どもの所在がわからなくなるもの、(2)親子が前後に分かれて移動している状況で子どもが周囲の事物に注意をひかれるなどして距離が広がり、所在が分からなくなるもの、(3)親子が示し合わせて別行動をとり、結果としてうまく再会できなくなるもの、の3つの特徴が描き出されました。
本研究の意義
生物学的な観点からみると、ヒトの子どもは他の哺乳類と比べ身体的に未成熟な状態で生まれ、かつ成長に時間がかかることが特徴と言われています。その子どもが親から自立していく過程では、親がそばにいなくても過ごせること、自身で危険を回避できることが重要なタスクの一つと考えられますが、「迷子」という現象は、子どもが自立していく過程で起こりうるトラブルの一つとみることができる。しかしその一方で、迷子の発生は、親子の相互作用の修正・調整を生み出す重要な契機とみなすことも可能です。子どもの「迷子」はいまだ未開拓のテーマで、今後さまざまな観点からの思索が広がり得る貴重な資料の宝庫と考えます。