vol.10 工学が拓くマイロボットの時代。井口 弘和

何も言わなくても、分かってほしい。

井口 弘和 写真01

 最近は、会話から人の気持ちを読み取り、気の利いた言葉を返してくれるロボットも誕生しています。それでもまだ、こちらから話しかけないといけない。感性工学はその先をめざしています。
 何も言わなくても、ユーザーの気持ちを理解し、自分から進んで働いてくれる機械。「2時間経ったから、そろそろ休憩しましょう」と言う前から、クルマ自身がドライバーの眠気を感知し、ハンドリングやアクセルのレスポンスを調整する。さらに、ドライバーの癖や好みを学習し、安心で心地よい走行環境を提供してくれる。そうなれば、そのクルマはかけがえのない相棒になります。ともに暮らし、一緒に育つ本当の“マイカー”です。
 やがて「自動運転車」の時代がやってきます。そうなった時には、動き出す前に複雑なボタンを押したり、いちいち運転の仕方を指示したりしたくはありません。人間には、ゆっくり窓の風景を眺めたいときもあれば、きびきび走ってほしいときもあります。そんなとき、乗る人、使う人の心に寄り添って運転してほしい。何しろ「自動運転」なのですから。そんな人間中心のモノづくりの鍵となるのが「感性工学」です。

感動を生み出す新たなモノづくりへ。

 これまで、モノづくりで重視にされてきたのは「快適性」でした。それはつまり、人に何も感じさせない「無感の状態」を目指すものです。しかし、人はときに、素晴らしい風景に出会って感動し、音楽に心踊らせ、ジェットコースターに乗ってスリルを味わいたい。何も感じない世界よりは、その方が遥かに楽しい。そんな、人間の感性に働きかける共感や感動が、新しいモノづくりの価値基準となる時代がやってきています。
 感動とは心の奥の感情の変化。そのために感性工学は、人間の心の深い部分に迫っていかなくてはなりません。心理学だけでは人間を完全に捉えきれないので、外部からの刺激に対する心身の反応や、さまざまな行動による内面の変化を追います。また、感性工学が心理学と異なるのは、人の感性を把握するだけでなく、それに合わせて新たな製品やシステムを考えていくことです。もちろん、クルマだけではありません。光や音など人間の五感が感じるあらゆるものをデザインし直し、人の心の奥につながる新たなモノづくりが始まっています。

そこにこそ、日本人の活躍の場がある。

井口 弘和 写真02

 このような“モノ”をつくろうとすると、テクノロジーに頼るだけでは成し得ません。「最先端の技術を組み合わせれば、新しいモノができる」というのは、エンジニアの思い込みです。それでは決して、売れる製品にはならない。これからのモノづくりは、エンジニア自身がユーザーのことを理解し、ユーザーが望むモノとは何かを考えて開発・設計していかなくてはなりません。
 そんなところに、日本人エンジニアの活躍の舞台があるはずです。それこそ、モノを大切にし、道具を愛する伝統をもつ日本のエンジニアの仕事です。世界の技術レベルが拮抗するなかで、人の心に寄り添い思いやることのできる本物のエンジニアを育てたくて、私はここ中京大学で、感性工学の研究を続けています。

井口 弘和 プロフィール写真

Profile 中京大学工学部 学部長 井口 弘和
1976年東京理科大学卒業。1996年名古屋工業大学博士号取得(工学博士)。1979年株式会社豊田中央研究所に入社。1999年同研究所感性心理研究室室長。2004年中京大学生命システム工学部教授に就任。以後、情報理工学部教授、情報理工学部長を経て2013年より工学部長。日本人間工学会認定人間工学専門家(2003年資格取得)。感性を捉える技術開発とその特性を探求し、人間中心設計の立場からデザインする研究を推進。

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